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東京高等裁判所 昭和59年(ラ)32号 決定 1984年7月03日

抗告人(原審原告)

黒川辰男

右代理人

橋本公明

抗告人(原審原告)

橋本公明

右代理人

黒川辰男

右両名代理人

上田弘毅

相手方(証人)

藤田泰弘

相手方(証人)

土屋泰

相手方(証人)

赤松悌介

原審被告

日本チバガイギー株式会社

右代表者

エッチ・エッチ・クノップ

右代理人

溝呂木商太郎

笠利進

主文

原決定を取消す。

相手方(証人)藤田泰弘の別紙(一)の一記載の、同土屋泰の別紙(一)の二記載の、同赤松悌介の別紙(一)の三記載の事項についての各証言拒絶はいずれも理由がない。

手続費用は原審及び当審を通じ相手方(証人)らの負担とする。

理由

一抗告代理人は、抗告の趣旨として主文第一、二項同旨の裁判を求める旨申し立て、その理由として別紙(二)記載のとおり述べた。

二本件申立に対する当裁判所の判断

1  本件記録によれば、事実関係の経緯は次のとおりであることが認められる。

(一)  東京地方裁判所昭和五三年(ワ)第九〇二八号報酬金等請求事件(以下「本件訴訟」という。)において、原告たる抗告人らは、原審被告(以下「被告」という。)に対し訴訟委任に基づく未払報酬金等の支払を求めている。右請求の原因は、(1)被告は全国各地の裁判所に係属中のいわゆるスモン訴訟の当事者であるところ、抗告人黒川は昭和五〇年三月に、同橋本は同年七月に、直接もしくは抗告人黒川は相手方(原審証人)土屋(以下、相手方(証人)を「相手方」と表示する。)を、抗告人橋本は相手方赤松をそれぞれ代理人として被告との間で右スモン訴訟について被告の代理人として弁護活動を行うことを内容とする訴訟委任契約を締結した、(2)右契約において、被告は抗告人らに対し抗告人らの弁護活動一時間あたり一万二〇〇〇円の報酬及び成功報酬を支払うことを約した、(3)よつて、抗告人らは被告に対し、未払報酬の支払及び抗告人らが昭和五三年七月二七日に被告から一方的に右委任契約を解除されたことによつて蒙つた得べかりし利益相当の損害の賠償を求める、というものである。

(二)  これに対して、被告は、抗告人らに対してスモソ訴訟の弁護活動を委任したことはなく、単に同訴訟について代理権を授与したにすぎず被告が抗告人らに報酬を支払う旨の契約を締結したことはない。被告は右スモソ訴訟については相手方藤田、同土屋、同赤松らの弁護士に委任し、同弁護士らの判断において、同弁護士らが抗告人らに対して右訴訟について弁護活動を委任したものであり、被告は右弁護士らに対してその約定に従つた報酬を支払済である、と主張した。

(三)  被告の右主張に対して抗告人らは、スモン訴訟については抗告人らと被告との間で訴訟委任契約が締結されたものであり、被告において相手方らに報酬を支払つたとしても、抗告人らへの報酬の支払に関しては相手方らは被告の履行補助者にすぎないから、抗告人らに対する有効な弁済とはいえないものであると主張した。

(四)  抗告人らは、その主張事実を立証するため、昭和五三年一二月九日被告の所持する別紙(三)記載の文書について文書提出命令の申立をし、東京地方裁判所は別紙(三)の三記載の文書については昭和五四年二月二三日に、同一記載の文書については昭和五五年一一月一〇日にそれぞれ被告に対してその提出を命ずる旨の決定をした(なお、別紙(三)の二記載の文書については抗告人らにおいて申立を取下げた。)。しかしながら、被告は右別紙(三)の三記載の文書については提出を拒絶し、同一記載の文書については存在しないとして、今日まで提出していない。

(五)  抗告人らはさらに自己の主張事実を立証するため相手方らを証人として尋問することを申請し、相手方藤田については昭和五五年一月一八日、同年七月七日、昭和五六年二月九日、同年三月三〇日に、同土屋については昭和五七年四月一二日に、同赤松については同年七月五日にそれぞれ取調べが行われた。しかしながら相手方らはいずれも別紙(一)記載の各期日に民事訴訟法二八一条一項二、三号に該当するとして同記載の各事項について証言することを拒絶し、これにつき原裁判所は冒頭のとおり決定したものである、

以上のとおりであることを認めることができる。

2  相手方らは、本件証言拒絶にかかる事実は抗告人らの要証事実と関連性がなく、抗告人らの主張事実の立証として必要性がないと主張するので、先ずこの点について判断するに、尋問の内容が関連性・必要性を有するか否かは、受訴裁判所(第一次的には裁判長)が訴訟資料全体の総合的評価に基づいて判断すべき事柄であり(民事訴訟法二九四条四項、二九五条)、これに対して独立の不服申立はできないものとされている。このような訴訟手続の構造からみると、証言拒絶権の有無に関する裁判について法が即時抗告を許している趣旨は、抗告審裁判所が尋問内容の関連性・必要性の点をも含めて審査することを予定するものではなく、尋問そのものが相当であり必要であることを所与の前提として、端的に民事訴訟法二八〇条、二八一条所定の要件の存否のみを審査させるにあるものと解される。したがつて、相手方の前記主張は、それ自体証言拒絶の正当性を根拠づけるべき性質のものとはいい難い。

3 そこで、本件証言拒絶事由が民事訴訟法二八一条一項二号に当るか否かについて判断する。

(一) 民事訴訟法二八一条一項二号は、弁護士等一定の職業にある者は、その職務の性質上他人の秘密を知る機会が多いところから、かかる他人の秘密が不当に暴露されることがないようにこれを保護するとともに、同号掲記の者とその相手方との信頼関係そのものをも保護する趣旨の規定であると解される。

(二) そして、右のような見地からするならば、同号の「職務上知リタル事実」とは、同号に定める者がその職務を遂行するについて知りえた事実を広く包含し、本件証言拒絶にかかる事実のような職務遂行の機縁となつた契約内容などもこれに該当すると解するのが相当である。

(三) 一方、右規定の「黙秘スヘキモノ」とは、一般に知られておらず、かつ、それが公表されれば、名誉、信用その他につき社会的、経済的に不利な影響を受ける事項であつて、本人が特に秘匿することを欲するとともに、他人が同じ立場に立つた場合においても同じように秘匿しておきたいと考えるような事実を指すものというべきである。

しかして、本件記録によれば、被告代表者は、同代表者尋問において、被告は被告が直接委任した弁護士に対して着手金、時間制報酬、成功報酬を支払つた旨供述したが、その具体的金額、その算出料率、報酬額についての約定の内容等については供述を拒否していることが認められ、相手方らが証言を拒否している事項は、被告代表者が供述を拒否した事項と同一のものであり、同代表者の右のような態度からして被告としては秘匿しておきたい内容のものであることは容易に推認できるところである。

しかしながら、民事訴訟法二八一条一項二号の「黙秘スヘキモノ」に該当するというためには、前記のように、単に本人がそれを秘匿することを望むばかりでなく、客観的に見てこれを秘匿することについて保護に値するような社会的、経済的利益が認められることを要するところ、本件の相手方による証言拒絶にかかる事実は、客観的に見て、これを秘匿することにつき依頼者たる被告に保護に値する程の社会的、経済的利益が存するような性質の事実であるとはいい難い、この点について相手方藤田は、原審で提出した「証言拒絶理由疎明書」(原決定添付別紙(二))において、本件証言拒絶が認められなければ、現在和解手続が進められているスモン訴訟に影響を及ぼし、ひいては被告の利益を害すると主張する。スモン訴訟が現在なお全国の裁判所に係属し和解手続が進められていることは公知の事実であるが、そもそも相手方藤田の右主張自体現段階では具体性の乏しい単なる危惧の域を出ないものである。また、仮に弁護士報酬額のいかんがスモン訴訟の和解で問題にされるおそれが相当程度にあるとしても、元来、弁護士報酬の額のように広い意味での市場原理に服し、かつ、右訴訟の追行の前提として決定されている事実をどの程度右和解において問題にしうるかは、極めて疑問であつて、単に右訴訟の原告側からこのことを和解交渉の材料として持ち出され、あるいは宣伝材料として利用されることが懸念されるからといつて、右報酬額等の秘匿につき被告に保護されるべき客観的利益があるとはいえない。その他本件記録を精査しても、証言拒絶にかかる事実が明らかにされたからといつて、被告の名誉・信用その他につき社会的、経済的に不利な影響を及ぼすおそれがあると認められることはできない。

(四) 以上のとおりであるから、本件証言拒絶は民事訴訟法二八一条一項二号に該当しないというべきである。

4  次に、本件証言拒絶が民事訴訟法二八一条一項三号に該当するか否かについて(この点は原審において相手方らが主張したが、原審は同項二号の事由について理由があると判断したため、当抗告の理由とはされていない。しかし、二号の事由について理由がないとされる以上証言拒絶を理由ないとするためにはこの点について判断する必要がある。)判断する。

民事訴訟法二八一条一項三号は、技術または職業の秘密に関する事項についてその秘密が公開されてしまうと、その技術の存在価値が失われ、またはその職業を維持することが困難になるので、これを防止し、その技術または職業を保持する趣旨と解されるところ、本件証言拒絶にかかる事実を公表されたからといつて、弁護士である相手方らの職業を維持することが困難になると認めることはできないというべきである。

してみると、本件証言拒絶は民事訴訟法二八一条一項三号に該当しないというべきである。

三以上説示するとおりであるから、相手方らの証言拒絶は理由がないといわざるをえず、これと結論を異にする原決定は失当として取消しを免れない。よつて、民事訴訟法四一四条、三八六条に従い、手続費用の負担につき同法九六条、八九条、九三条を適用して主文のとおり決定する。

(鈴木重信 加茂紀久男 片桐春一)

別紙(一)

一 相手方(証人)藤田泰弘

1 昭和五五年一月一八日の期日

(一) いわゆるスモン訴訟における(以下、同じ)原審被告日本チバガイギー株式会社(以下、被告という。)と弁護士ジェイムス・エス・アダチとの間の訴訟委任契約の時間制報酬額

(二) 原審被告と相手方(証人)との間の訴訟委任契約の成功報酬額、その決め方及び支払時期

2 昭和五五年七月七日の期日

原審被告と弁護士ジェイムス・エス・アダチ、同宮武敏夫、同土屋泰及び相手方(証人)藤田との間の訴訟委任契約の契約書における成功報酬の取決め

3 昭和五六年三月三〇日の期日

(一) 原審被告と相手方(証人)藤田との間の訴訟委任契約の時間制報酬額

(二) 原審被告の抗告人(原審原告)黒川及び同橋本に対する時間制報酬額

(三) 相手方(証人)藤田及び弁護士ジェイムス・エス・アダチが原審被告から受領した成功報酬額

二 相手方(証人)土屋泰

昭和五七年四月一二日の期日

原審被告と相手方(証人)土屋との間の訴訟委任契約の時間制報酬額

三 相手方(証人)赤松悌介

昭和五七年七月五日の期日

(一) 原審被告と相手方(証人)赤松との間の訴訟委任契約の契約書における着手金、時間制報酬及び成功報酬の金額ないし料率

(二) 相手方(証人)赤松が原審被告から着手金を受領したか否か

(三) 原審被告の弁護士笠利進に対する弁護士報酬の種類と金額が、相手方(証人)赤松に対するそれと同一か

(四) 抗告人(原審原告)橋本のした仕事に対して原審被告が相手方(証人)赤松に支払つた時間当りの報酬額及びその値上げの有無

(五) 原審被告の第一回目の成功報酬の支払時期

(六) 第一回の東京和解の成功報酬の支払の有無、金額及び回数

別紙(二)

即時抗告の理由

一、1、本件訴訟の争点は、弁護士である原告らと被告との間においてスモン訴訟の処理に関し直接の訴訟委任契約関係が成立したか、また成立したとした場合、報酬の定めがなされたかの点にある。この点を立証するために、原告らは先に被告の商業帳簿の提出命令及び被告と本件証人らとの間の契約書の提出命令を申立て、前者については昭和五四年二月二三日、後者については、昭和五五年一一月一〇日それぞれ文書提出命令が被告に対し決定されたが、今日に至るまで、被告は全くこれに応じていない。そこでやむなく原告らは人証でこれを行わざるを得なくなり、本件証人らに右立証の為本件各尋問を為したところ、証人らが証言拒絶を為したものである。

2、即ち、原告らの本件請求の立証の為には本件証言拒絶にかかる尋問に対する証言が必要不可欠なのであり、この本件請求の核心に該る事項について、証人らが証言拒絶を為したものであることを、まず強調する。

三、1、次に、本件証言拒絶の対象たる事項を分類すると、大きく分けて、次のとおりとなる。

(一)、原告ら自身の仕事に対する時間制報酬

(二)、成功報酬

(三)、証人ら各自の時間制報酬

(四)、証人ら及び原告ら以外の弁護士の報酬

2、右(一)及び(二)は、本件要件事実であり、右(三)については、証人ら各自が自らの仕事に対して既に十二分のものを受領しており、従つて、被告が証人らに原告らの報酬をピンハネを許す内容の契約を証人らとの間で締結したとは考えられず、従つて、原告らと被告との間に直接の訴訟委任契約が成立したことを示す重要な間接事実であり、右(四)については、原告らと同じく被告と契約書を交していない弁護士の場合の報酬内容及び日本の弁護士資格を持たない者についてすら成功報酬が支払われていた事実を立証するためのものであり、これも言うまでもなく、本件における重要な間接事実であると考えられる。

いずれにしても、右各事実は裁判所が必要と認めてなした文書提出命令の対象となつている文書によつて立証が予想される事実である。

三、1、原決定の理由二、2、において、「職務上知りたる事実」とは、①受託者が委託者からの委託に伴つて知り得た事実、②ある事務を委託する契約の内容自体に関する事実の二つに分け、後者については、それが委託者の秘密となる限り前者とその保護において区別すべき理由は見出し難いと述べて、後者を「職務上知りたる事実」の中に含ませている。しかしながら、同条項の証言拒絶権は、裁判所の実体的真実発見を制約してまでも、弁護士その他一定の職にある者に認められているのである。従つて、同号は厳密に解釈すべきものであるはいうまでもない。しかるに、原決定は前記の通り、①の事実のみならず、②の事実にまで安易に拡張しているが、これは本号の立法趣旨から考えて不当である。即ち、本号の「職務上知りたる事実」とは、前記①の事実に限定されるべきであり、委託契約自体がこれに含まれないのは当然というべきである。いわんや、各証人が証言拒絶した事項であるところの報酬金額等については、これが「職務上知りたる事実」でないことは、自明の理である。

2、原決定の理由二、3、において、「黙秘すべきもの」の定義をした上で、本件各証言拒絶にかかる事項が、右の定義に該当するものと判断しているが、右判断は次の理由により失当である。即ち、右定義の正否はともかくとして、報酬内容の開示が、いわゆるスモン訴訟の被告である本訴被告の立場に不利な影響が及ぶおそれが認められると判示しているが、そもそも右報酬内容は、いわゆるスモン訴訟の帰趨とは無関係である(弁護士が報酬をいくらもらつても、それが裁判に影響があるはずがない)。

しかるに、原決定は、何の理由も示すことなく、全く無前提に、被告に不利な影響があると判示している。しかも、その証拠は何も示されていない。弁護士が依頼者から報酬をいくら支払われているかということは、裁判の公正を犠牲にしてまで、秘密にすべき事項でもないし、それが公表されたとしても、いわゆるスモン訴訟の消長には何の影響もないはずである。

四、また、原決定は、証人らの証言拒絶事項について、本訴被告が特に秘匿することを欲していると断じているが、そのような証拠はなく、これは原審の独断といわざるを得ない。ちなみに、被告代表者クノップは昭和五四年五月一四日付の本人調書第五丁において、「その報酬の約束の内容を述べて下さい」という問に対し、「それは弁護士に相談するまでは致したくございません。なぜかと申しますと、それは、私の会社と弁護士との間の私的な契約だからでございます」と述べている。このことは、弁護士が承諾すれば証言するということであり、被告自身が秘匿することを欲しているものではない。更に続けて、被告代表者は、「裁判所の命令であれば報酬金額について、供述します」という趣旨のことを述べ、通訳人である柏岡氏もそのとおり翻訳したのであるが、如何なる理由かは不明であるが調書には記載されていない(必要とあらば、柏岡氏を証人として出廷させる用意があるし、裁判所におかれては録音テープを精査されたい)。

右のとおり、被告会社は、弁護士に支払つた報酬金額について、それを秘匿したいとは考えていないのである。のみならず、一般人の立場から考えても、弁護士に報酬をいくら支払つたかについて秘匿しなければならない理由は全く考えられない。

そもそも本号所定の職業についている者のみに、その者がある事項について委託を受けた場合の報酬金額について、証言拒絶権を認める合理的理由は存在しないというべきである。

五、更に原告らは、昭和五五年七月七日付の証人藤田泰弘の証言拒絶理由疎明書に対し次の通り反論する。

1、右書面のイ記載の主張が不当なことは、既に述べたとおりである。即ち、

(一)、民事訴訟法第二八一条第一項第二号所定の「職務上知リタル事実」とは、あくまで受託者が委託者からの委託に伴つて知りえた事実を指すのであつて、その委託契約の内容がこれに含まれないことは、同号の立法趣旨に照らし明かである。

(二)、被告代表者は、法廷において、報酬内容についての供述を拒絶するにあたり、「弁護士」即ち証人らの承諾を得ていないことを理由として述べたのであるから、証人藤田らがそれを理由として証言を拒絶することは、全く理由がないというべきである。

なお、右書面のロ及びニは、訴訟委任契約の内容に過ぎず、従つて、「職務上知リタル事実」には該当しないところの報酬内容が、これに該当するとの前提に基いて主張されており、それ自体失当というべきであるが、以下に若干の反論をする。

2、右書面のロにおいて、証人藤田は、「スモン訴訟は現在和解が進行中であるが、製薬企業が負担し、支払うべき和解一時金や恒久治療対策の内容等をめぐつて、被告会社の支払能力が問題とされており、このような微妙な時期に、証人らが被告会社から受け取る報酬の具体的内容を他言すれば、依頼者たる被告会社の利益を害するに至るであろうことは見易いところである。」と述べているが、この主張の正当性にはきわめて大なる疑問がある。すなわち、右和解一時金、恒久治療対策の内容等が具体的にどのようなものであるか、被告会社の支払能力が問題とされているとして(原告らはその真偽を知らない)、具体的にそれがどのように問題とされているのか等については、全く述べられていない。従つて、「このような微妙な時期」といわれても、何故微妙なのか、又どのように微妙なのかについても、全く明確ではない。また、証人が報酬の内容について他言すれば。被告会社の利益を害するというが、被告会社のどのような利益がどのように害されるのであるか、全く説明がない。そもそも、正当な報酬が支払われているのであれば、被告会社の利益は何ら害されない筈である。法外な報酬が支払われているのであれば、それによつて、被告が何らかの不利益を被つたとしても、それをもつて、証言拒絶の理由とすることは、証言拒絶の立法趣旨に照らし、筋違いである。正当であつても法外であつても、被告会社の利益が害されるというのであれば、何としてもその理由は示されるべきであるし、また「害するに至るであろうことは見易いところ」というのであれば、その見易い理由が示されるべきである。

要するに、右の証人藤田の主張は一見もつともらしくみえるとしても、法的主張としては、全く空虚なものというべきである。

3、右書面のハの記載は、原告らに対する悪意に満ちた中傷以外の何者でもない。この記載は原告らの第一準備書面第一〇丁の記載を改変している。裁判所におかれても、熟読の上、この点を確認されたい。原告らがスモン訴訟の原告らと全く無関係であることは、被告も十二分に承知しているところである。証人藤田はこのことを充分に承知の上で、裁判所を誤解に導く為にこのような悪質な中傷を行つているのである。

4、右書面のニは、スモン訴訟原告らのいわゆる抗議活動を根拠とした記載であるが、既に述べた如く、原告らは、スモン訴訟の原告らとは、全く無関係であり、スモン訴訟の原告らのいわゆる抗議活動の責任を、本件原告らに転嫁する理由は全くない。

更に、同証人は、あたかも当然のごとく、「その漏洩ないし公表が被告会社に事実上の不利益(スモン訴訟追行上の不都合)をもたらすことは明らかである」と述べているが、これについても、何らの具体的な理由ないし疏明(たとえばどういう事実があるからどのような裁判上または裁判外の不都合があるのか等々)は示されていない。

別紙(三)

一1 原審被告と相手方(証人)赤松悌介との間で、昭和四六年五月ころ作成され、後に訴外井出敏光等が署名したいわゆるスモン訴訟に関する訴訟委任契約書

2 原審被告と訴外ジェームス・エス・足立外三名との間で昭和四八年一〇月ころ作成され、後に訴外広川浩二が署名したいわゆるスモン訴訟に関する訴訟委任契約書

二 報酬の請求及び授受を証する一切の文書

三 昭和四九年一二月から現在に至る原審被告の商業帳簿のうち、原審被告からそのスモン弁護団に属する各弁護士に対する報酬の支払の記帳されている一切の帳簿(源泉徴収台帳を含む)

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